”しろしめす”とは

先日,チャンネル桜で”建て直そう日本・女性塾(非公式ブログ)”の第1回研修会の様子が放映されていました.その研修会のなかで,日本政策研究センター伊藤哲夫先生の講義「憲法について」を拝聴して,明治憲法に流れる根本思想である”しろしめす”の意味を不勉強ながら初めて知りました.勿論よく聞く言葉ですが,深く考えたことがなかったですね.

しろしめす”の意味をヤフー辞書で調べてみると,


「しらしめす」の音変化で、平安時代以降の語,「知る」の尊敬語。

1. 知っていらっしゃる。おわかりでいらっしゃる。
「故按察大納言は、世になくて久しくなり侍りぬれば、え―・さじかし」〈源・若紫〉

2. お治めになる。
「すべらぎの、天の下―・すこと」〈古今・仮名序〉

3. 管理なさる。お世話なさる。
「さらに―・すべきこととは、いかでか空にさとり侍らむ」〈源・夢浮橋〉

となります.

また,ユビキタス・コンピューティングのユビキタスの原意って坂村健(東大教授)氏によると,「ユビキタスという言葉は、ラテン語をベースとする高級な英語でして、「どこにでもある」、これはもともと”神様があまねくしろしめす”という意味です。そこにコンピューティングとつけて、ユビキタス・コンピューティング、いつでもどこでもコンピュータが使えるという意味となり、こういう名前の分野が誕生しました。」なんだそうです.
まぁ 日本古来の言葉は一般英語で表現し得ぬ多様な意味を包含していますので,ちょっと意訳っぽくなってしまうんでしょうが,”いつでも,どこでも”ってのはちょっと変な気がします(無理矢理英語に直すと,reign {君臨する<に over >;勢力を奮う}となりますが・・).

もう一つ,統治するという意味で使われる言葉として”うしはく”があります.先出の伊藤先生によると,この”うしはく”と”しろしめす(平安以前は”しらす”)”の意味の違いにこそ,明治憲法を作った伊藤博文井上毅らの天皇陛下への尊崇の念と世界でも類い希なる統治システムの智慧が込められていたと仰いました.
ここで,”うしはく”と言う意味ですが,”オロモロフのホームページ”様の論考”明治憲法第一条[万世一系と統治]”によると,

◎〈うしはく〉の由来
 そこで、辞書の類で、調べてみます。まずは〈うしはく〉の由来です。
〈うしはく〉は『古事記』や『万葉集』にある古い言葉で、「支配する」とか「領有する」とかいった意味です。
 文化勲章を受章された白川静先生の『字訓』には、
「〈うし〉は主人、〈はく〉は身に帯びること」
 ――となっており、また平成九年刊行の小学館の『古事記』の注では、
「〈うし〉は主、〈はく〉は着」
 ――となっています。

 この説は、古くは、江戸期最高の国学者である本居宣長の『古事記伝』にもありますので、引用しておきます。
 宇志波祁流(うしはける)は、主として其處を我物と領居るを云、但天皇の天下所知食ことなどを、宇志波伎坐と申せる例は、さらに無ければ、似たることながら、所知食などと云とは、差別あることと聞こえたり、・・・
 これらから、次のように言えると思います。
〈うし〉は重要人物にとっての「自分」という意味で、「居る」という意味の〈う〉が語源のようです。
 似た言葉に現在も通じる〈ぬし〉があり、これは「この巨大魚は湖のぬしだ」などの用例でわかりますように、主人という意味ですが、「Xのうし」の「のうし」が短く変化して〈ぬし〉なったとされます。
 一方〈はく〉は、現在も使われており、「ズボンを履く」「靴を履く」がありますし、「武士が太刀を佩く」などもあります。
 つまり、
〈うしはく〉=「貴人が自分の身につける」
 ――で、そこから、
「土地や人民を自分の私有物として支配し領有する」
 ――という意味になりました。
 比較的分かりやすい古語です。


となります.要するに,”うしはく”と言う言葉は明らかに強権的に統治する(支配する)と言う意味合いで使われることになります.所謂,ヨーロッパ型,支那型の統治システムです.
では,どの点がほぼ同意である”しらす”と異なるのでしょうか.
そこで,同論考を観ると,

◆◆◆ 二・二 〈うしはく〉と〈しらす〉はどう違うのか ◆◆◆

◎著名な資料にある解説

「国譲り」の神話で分かりますように、古代の史書にあります天皇による統治は、〈うしはく〉ではなく〈しらす〉です。
 そこで次に知りたいのは、〈うしはく〉と〈しらす〉の違いです。
 この二つの語には、どういう違いがあるのでしょうか?
 この違いを意識したからこそ、伊藤博文たちは、『憲法義解』におきまして、天皇の御統治は〈うしはく〉ではなく〈しらす〉である、と強調したわけですから、明治憲法を理解するためには、この二つの言葉の違いを明確に認識しなければなりません。
 いくつかの資料から、この違いを拾ってみます。

(「万世一系」と「対」になっている「統治」の意味の吟味なので、これは「万世一系」の認識にも通じると思います)

〔a〕本居宣長古事記伝
「・・・天皇が〈しろしめす〉ことを〈うしはきます〉と言う例は無いので、似た言葉ではあるが、〈しろしめす〉という表現とは、違う事だと考える・・・」
 先の引用の後半を意訳すれば、このようになるでしょう。
 違いを明確に述べてはおりませんが、〈うしはく〉は天皇の統治には使わない言葉である――と言っています。たしかにそのような例は無いようです。

〔b〕小学館古事記
 この本の注では、
〈うしはく〉は、ウシ(主)+ハク(着)で、そのものの主人として身に着けるの意。ここでは、〈大國主神〉が地上世界の諸領域を領有することをいう。
しらす〉は、高度の政治的・宗教的支配を表し、〈うしはく〉と区別されている。
 ――となっています。
 高度と言われても、具体的にはどういう事なのかわかりませんが、「独裁的ではない穏やかな支配だ」という雰囲気は、おおまかには分かります。

〔c〕白川静『字訓』
〈うしはく〉は直接的な支配を意味し、〈しる〉はより高次の統治のしかたをいう語である。領にその両訓がある。
 ――と書かれています。
 小学館の説明と似ています。
 高次とは「野蛮ではない」「近代的である」とも受けとれます。

と解釈されておられます.
筆者のようなド素人でも十分意味が分かりました.”しらす(しろしめす)”とは”うしはく”のような直接的かつ強権的な支配・統治ではなく,さらに高度で,いわば高次元の信仰にも似た平和的な統治であること,のようです.一言で表すには筆者のようなボキャブラリーに乏しい人間では上手く表現し得ない統治システムであろうかと思います.

伊藤先生によると,かの井上毅がヨーロッパに留学して近代憲法を学び,そして日本の伝統文化に基づいた天皇による統治システムを如何に融合させて新しい日本人の規範を作るかという命題について得た究極の原理が”しろしめす”という言葉だった,と結んでおられました.
そして,その明治憲法の第一条には「大日本帝國ハ萬世一系ノ天皇之ヲ統治ス」とあります.この統治とはすなわち,”しろしめす”に他ならない訳です.さらに重要なのは,この統治を司るのは万世一系に裏打ちされた天皇陛下のみであるということです.

そりゃそうでしょう,”しろしめす”のような高次元の統治は,たとえ武功を重ねた将軍であろうと,どんなに優秀な学者であろうと,ましてや臣民などに出来るわけもありません.誤解を受けるかもしれませんが,日本人にある一種の信仰心と言っても良いような気がします.
ただ,問題はその万世一系が双系(男系でも女系でも良い,雑系)であっても構わないという考え方があるということです.2つ前のエントリーでも述べましたが,田中卓氏は諸君3月号の論文で女系でも構わないとの論文を書いておられます.
この論文への批判は”毒吐き@てっく”氏のサイトで詳細にされていますし,私も素人ながら矛盾するところを指摘させていただきましたので,ネット界での影響はさほど無いかもしれません.しかしながら,一般言論ではやはり,大御所の論と云うことで女系推進派が広く流布せしめるやもしれません.皇室典範の改悪に反対する高名な知識人による正当なる批評を期待しています.
筆者は重い事実として,皇統が直系,傍系に拘わらず男系で繋がれてきた以上,万世一系と男系の語は同義であると考えています.

最後に,”オロモロフのホームページ”様では色々と勉強させていただきました.
御礼申し上げます.


ところで,皇室典範問題研究会(代表・小堀桂一郎)が「皇室典範改定問題に関する提言」を発表したそうです.ここで読むことが出来ます.現在,現実的に取りうる策であろうかと思います.

「皇室典範改定問題に関する提言」



↑日本の伝統と日本人としての誇りを破壊する↑
皇室典範の改悪に強く反対します(万世一系HPにとびます).


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